採用ブランディングとは、企業が“自社に合う人材”から選ばれるために、会社の魅力や価値観を発信し、共感を得るための戦略的な取り組みです。
給与や条件だけでなく、「どんな想いで仕事をしているか」「どんな人が活躍しているか」といった情報を伝えることで、求職者とのマッチング精度を高め、定着・活躍につながる人材を採用しやすくなります。
この記事では、採用ブランディングの意味や目的、進め方、実際の成功事例までをわかりやすく解説します。
採用ブランディングとは、企業が「自社に合う人材」に選ばれるための、採用市場におけるブランド設計のことです。
求職者が「この会社で働きたい」と感じるような、理念・カルチャー・働き方などの“内面的な魅力”を可視化し、戦略的に発信していく取り組みです。
近年、給与や福利厚生だけで会社を選ぶ時代は終わり、求職者は「働く意味」や「共感できる価値観」に強く反応するようになっています。
採用ブランディングは、そうした背景を踏まえ、“自分ごと化”される情報発信を通じて、ミスマッチのない母集団形成と定着率向上を実現します。
採用ブランディングの本質的なゴールは、経営課題を解決できる人材と出会い、定着・活躍してもらうことです。
単なる“応募数の増加”ではありません。
こうした課題に対し、採用ブランディングは「自社の魅力や意義」を言語化し、“自分がその一員になるイメージ”を求職者に持ってもらうための設計図となります。
また、入社前から企業の価値観や想いを共有できるため、理念浸透の土台づくりにもつながります。
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なぜ今、採用ブランディングが注目されているのか。
その背景には、社会・採用市場の大きな変化があります。
近年、若年層を中心に「誰と」「なぜ」働くのかという視点で会社を選ぶ傾向が強まっています。
特に、自己実現や社会貢献を重視する価値観が浸透し、従来の終身雇用や年功序列といった働き方に対する価値観が変化しています。
これにより、企業はフレックスタイム制度やリモートワークの導入、キャリアパスの多様化など、柔軟な働き方を提供する必要性が高まっています。
求人に対して応募が集まりにくく、企業は人材の確保に苦戦しています。
2024年の就業者数は6,781万人と過去最多を記録しましたが、それにもかかわらず、企業の約5割が「人手が足りない」と回答しています。
特に中小企業では、採用難が深刻な課題となっています。?
また、新卒者の早期離職率も高止まりしています。
2024年度の大卒者の3年以内の離職率は34.9%、高卒者では38.4%に達しており、企業にとっては採用・育成コストの損失や組織の安定性への影響が懸念されています。
採用ブランディングを成功させるためには、単発的なコンテンツ制作や表現の工夫だけでなく、一連の戦略的プロセスに沿った進め方(フレームワーク)が重要です。
採用ブランディングの第一歩は、「どんな人材を採用したいのか」を明確にすることです。
求める人物像(=ペルソナ)を具体化するには、スキルや経験だけでなく、自社の理念や組織文化に共感できるかといった“価値観の一致”も重要な要素となります。
採用ブランディングの最初の壁としてよく挙がるのが、「うちにとっての“優秀な人材”って、具体的にどんな人だろう?」という問いです。
スキルや経験の有無だけでなく、自社のフェーズや文化にフィットする人材像を定義することが、精度の高いペルソナ設計の出発点になります。
こうした定義を曖昧にしたまま施策を進めると、「応募は来たがミスマッチだった」という結果になりやすいため、まずは既存の活躍人材に共通する価値観や行動特性を洗い出すことが重要です。
ターゲットが定まったら、次は「どんな魅力を、誰に、どう伝えるか」を考えます。
給与や福利厚生といった条件面ではなく、働く意味・社風・日々のエピソードといった“内面的な魅力”を整理することがポイントです。
理念やミッションが抽象的になりすぎないよう、社員インタビューや社内事例を元に具体化することで、コンテンツの材料として活用しやすくなります。
自社の魅力が整理できたら、それをどのように求職者へ届けるかを設計します。
このステップでは、求職者の“関心フェーズ”(認知・興味・比較・検討)に応じて、発信する情報や媒体を適切に使い分けることが重要です。
たとえば、認知段階ではSNSや短尺動画、検討段階では採用サイトやカルチャーデックなど、タッチポイントごとの“情報の深さ”に差をつけることで、自然な情報接触が生まれます。
情報設計を元に、実際のコンテンツを制作していきます。
動画、記事など表現手段は多様ですが、どの媒体を使うか、どの導線で見られるかといった媒体戦略の設計もこのフェーズの重要な仕事です。
また、ペルソナごとにトーンや打ち出しを変えるなど、「届けたい人に響く」工夫を重ねることで、効果的な採用ブランディングへとつながっていきます。
採用ブランディングは一度作って終わりではありません。
コンテンツ公開後は、応募数・辞退理由・内定承諾率・入社後の定着率などを分析し、施策の成果を数値で可視化することが大切です。
特に、「どの媒体からの応募が質が高いか」「どんなメッセージが辞退につながっていたか」などを定期的に見直し、PDCAを回して精度を高めていくことが、ブランディングの持続的な成果につながります。
採用ブランディングは、単一施策よりも複数の打ち手を組み合わせることが効果的です。
自社の課題やペルソナに応じて、SNS運用や動画コンテンツ、カルチャーデックなどを戦略的に設計しましょう。
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採用ブランディングは魅力的な打ち出しができれば成功する、という単純なものではありません。
実際には、多くの企業が「良かれと思ってやったことが逆効果になった」という失敗を経験しています。
用ブランディングの重要性や進め方を理解しても、「実際にどう成果につながるのか?」という点が気になる方も多いはずです。
ここでは、実際に採用ブランディングを導入し、共感を軸に人材獲得や離職防止といった成果をあげた企業事例をご紹介します。
各社がどのような工夫をし、どんな効果を得たのか、具体的なヒントとして参考にしてみてください。
東京都交通局では、女性採用の強化を目的に、パラパラ漫画ムービーを活用した採用ブランディング動画を導入しました。
女性職員が仕事を通じて自信をつけていく姿をストーリー形式で描き、文字情報ではなく映像で“働く意味”を伝える工夫をしています
背景として、鉄道業界は一般的に「男性の職場」という固定観念が根強く、女性にとっては働くハードルが高いと認識されがちな業種でした。東京都交通局では、そうしたイメージを払拭し、「女性も安心して活躍できる職場」であることを可視化する必要がありました。
転職活動中の顕在層だけでなく、転職サイトなどをまだ見ていない“潜在層”にも広くアプローチし、交通局という選択肢の存在を印象づけることが狙いでした。
動画公開後は、SNSでの拡散や説明会での使用により、女性応募者の増加やポジティブなブランドイメージの醸成に成功。
「自分もここで活躍できそう」という感想が増え、認知から応募への転換率が高まりました。
三菱電機エンジニアリングでは、幅広い事業領域(家電?宇宙)を一貫して伝えることに課題がありました。
特に、最先端の技術や社会インフラを支える業務の魅力が学生に伝わりづらく、企業の“未来性”や“技術力”を実感として届ける必要がありました。
採用ブランディングの一環として、日常の製品から宇宙開発までを自然につなげるパラパラ漫画ムービーを制作。自社の社会貢献性を“感覚的に伝える”構成としました。
理工系の大学生・高専生を主なターゲットとし、専門知識を持つ学生に向けて、「自分の技術が社会でどう活きるか」を描くことに重点を置いています。
結果として、「会社のスケール感が伝わった」「志望動機が明確になった」といった声が学生から多く集まり、応募者の企業理解度とエンゲージメントの向上に直結しました。
正田醤油では、営業・開発・製造といった職種ごとに求める人物像が異なるため、それぞれに向けた採用向けのブランディング動画を制作。
職種別のやりがいや働く意義に焦点を当てることで、求職者自身が「自分はこの職種でどう成長できるか」をイメージしやすい構成にしています。
各職種動画は採用サイトや説明会で活用され、「仕事内容の具体的なイメージが持てた」「配属後の働き方まで想像できた」といった反応が多く寄せられ、エントリー時の志望動機の質が向上。選考中の歩留まり改善にもつながっています。
これらの成功事例から共通して言えるのは、採用ブランディングが単なる情報発信ではなく、「誰に・どのように伝えるか」を戦略的に設計する必要があるということです。
特に以下の点が成果に直結しました。
採用ブランディングは、採用広報・採用動画・カルチャーデックなど複数の手法をどう組み合わせるかが鍵となります。
SNSブランディングとは?メリットや運用の注意点、成功事例を解説
採用ブランディングとは、理念・文化・人材戦略を接続し、“選ばれる企業”へ進化するための構造的な取り組みです。
コンテンツ制作だけでなく、ペルソナ設計や社内浸透、フェーズ別の打ち出しまで含めた設計力が、成果を左右します。
アトムストーリーは、企業の“想い”をストーリー化するプロフェッショナルとして、共感と納得の採用体験を設計・支援しています。