生成AI動画には、制作コストや納期を圧縮できるという分かりやすいメリットがあります。撮影や素材制作など、従来は時間や費用がかかっていた工程の一部を効率化できるためです。
この記事では、生成AIで作った映像・画像・音声などを、企業が公開する動画の一部または全部に使用するケースを「生成AI動画」として扱います。社内でのアイデア出しなど、生成物を公開しない利用は対象にしていません。
しかし企業にとって、本当に比較すべきなのは制作費や納期だけでしょうか。
生成AIを使った広告が消費者にどう受け取られるか。ブランドへの評価にどう影響するか。本来伝えたいことを表現できるか。公開後にどのような対応が必要になるか。制作時点では見えにくいリスクまで含めて考える必要があります。
実際、米国発の世界的な玩具ブランド「トイザらス(Toys “R” Us)」が生成AIを使ったブランド動画を公開した際、メディアインテリジェンス企業CARMAの分析では、オンライン上のネガティブな言及が13.5%から53.4%へ増加しました。
もちろん、この数字だけで売上やブランド好感度が低下したとは言えません。一方で、制作費や納期を削減できても、公開後にブランドへの否定的な反応が増えれば、企業にとって別のリスクや対応コストが生じます。

この記事では、企業が生成AI動画を検討するときに考えたい3つの主要なリスクと、公開後に生じ得るコストを整理します。
目次
企業が生活者向けの動画を公開する以上、制作側の効率だけでなく、受け手がどう感じるかも判断材料になります。
一般社団法人日本インタラクティブ広告協会(JIAA)が2026年に実施した調査では、生成AI広告について「条件が整えば活用してよい」が52.0%でした。一方、「積極的に活用すべき」は4.3%にとどまり、「活用すべきではない計」も43.7%でした。
さらに、生成AI広告に対するネガティブなイメージは57.6%で、「本物らしさがない/不自然」が26.4%で最も多く、「情報の正確性が心配/信頼できない」「著作権が不安」といった回答も挙げられています。
同じ調査では、生成AI広告を受け入れやすくする条件として「生成AIを活用していることが明記される」が37.6%で最も高くなっています。一方、後述する研究では、AI利用の表示によって広告にかけた労力や商品品質が低く推測される傾向も報告されています。調査設計や対象は異なるため直接比較はできませんが、企業にとっては、透明性を確保することと、AIを使った広告がブランドや商品にどう受け止められるかを、別の問題として考える必要があります。

この結果だけで「AI動画を使うとブランドが毀損する」とは言えません。ただ、「AIで制作した」という事実そのものが、受け手の評価に影響する可能性も研究で示されています。
2026年に『Journal of Business Research』で公表された研究では、AI利用が明示された広告は、制作にかけた労力が少ないと受け取られ、それが商品品質の評価やブランドへの反応を低下させる傾向が確認されています。
また別の研究では、感情を伴うマーケティングメッセージでは、AIが作成したと認識された場合に真正性が低く評価される一方、事実中心のメッセージでは影響が弱まることが示されています。
つまり、AIがブランドに良い・悪いと一律に判断することはできません。先進性や新しい技術そのものを伝える企画では、AI利用がブランドの印象と一致する可能性があります。
一方、こうした発信主体の人間性や誠実さまで含めて伝えたい企画では、「AIで作った」という事実がどう受け取られるかを、より慎重に考える必要があります。
生成AIによって、完成形に近い映像を早く作れるようになりました。しかし、映像を作れることと、企業が伝えたいことを表現できていることは別です。
動画では本来、「なぜこの動画を公開するのか」「誰に見てもらうのか」「何を理解してほしいのか」「どのような印象を持ってほしいのか」を整理したうえで、ストーリー、言葉、人物、表情、構図、間、演出などへ意図を落とし込んでいきます。
例えば絵コンテは、その意図を映像へ落とし込む工程の一つです。重要なのは絵コンテを作ること自体ではなく、公開する目的や対象者から、表現の細部まで一貫して設計されていることです。

生成AIを使う場合も、この設計が不要になるわけではありません。仮に制作費や制作期間を削減できても、「動画は完成したが、本来伝えたかったことが十分に伝わらなかった」のであれば、マーケティング施策として本当に効率化できたとは言えません。
生成AIを使う場合にも、「それらしい映像ができたか」ではなく、「この表現で本来の目的を達成できるか」を見る必要があります。
生成AI動画では、著作権や肖像権、人物の顔や声、生成サービスの利用条件などを確認する必要があります。また、映像が自然に見えても、商品、文字、人物、数値などが事実として正しいとは限りません。
一方、こうしたリスクへの対応も進んでいます。AI動画制作会社の中には、著作権・肖像権のチェックや、生成ログ・プロンプト履歴の保存などを制作プロセスに組み込む企業も出てきています。
そのため、「AIだから危険」と一律に判断するのではなく、どのような管理体制で制作されるのかを確認することが重要です。
冒頭で紹介したトイザらスの事例では、2024年にOpenAIの動画生成AI「Sora」を使い、創業者の少年時代とブランド誕生を描いた動画を公開しました。CARMAの分析では、公開後に同社に関するオンライン上のネガティブな言及が13.5%から53.4%へ増加し、ポジティブなものは12.2%から3.4%へ低下しました。
一つの事例だけで、生成AI動画全体を評価することはできません。AIを使うこと自体が企画の意味になり、好意的に受け取られるケースも考えられます。
否定的な反応が増えれば、企業には問い合わせへの対応、社内への説明・報告、クリエイティブの差し替え、ブランドへの影響への対応などが必要になる可能性があります。
SNSや動画プラットフォーム上のコメント、記事、投稿などは、公開直後だけでなく、その後も検索やSNS上で参照される場合があります。
特に大手・上場企業では、問題が起きた際に、「なぜこの制作手法を選んだのか」「どのようなリスクを想定していたのか」「なぜ生成AIを使う必要があったのか」を社内で説明する場面も考えられます。
そのため企業が比較すべきなのは、単純な制作費だけではありません。コスト・納期によるメリットと、消費者・ブランドへの影響や公開後の対応まで含めて判断する必要があります。

先進的と受け取られるのか。あるいは、制作にかけた労力が少ない、真正性が低いと受け取られる可能性があるのか。今回伝える内容と対象者にとって、「AIで作った」という情報がどのような意味を持つかを考えます。
起点になるのは、「誰に、何を伝え、どう受け取ってほしいのか」です。そのうえで、ストーリー、言葉、人物、表情、構図、演出などが、その目的につながっているかを確認します。
生成AIによって削減できる制作費や納期だけではなく、消費者からの反発、ブランド評価への影響、公開後の対応、社内への説明、本来のコミュニケーション目的を達成できない可能性まで含めて判断します。
動画を安く作ることではなく、その動画で企業が得たい成果を実現することが本来の目的だからです。
アトムストーリーでは、パラパラ漫画などのストーリーを制作する際も、いきなりストーリーを作り始めることはありません。
まず、クライアントの商品やサービスについて、誰に、どの価値を伝えるのかという訴求軸を整理します。
そのうえで、企業側が伝えたいことだけではなく、その先にいる顧客の視点から、「何を、どう伝えれば届くのか」を言語化し、ストーリーや演出へ落とし込んでいきます。
この考え方は、生成AIを使う場合でも変わりません。AIでどんな映像を作れるかから考えるのではなく、まず誰に何を伝え、どう受け取ってほしいのかを整理する。その目的に生成AIが合うのであればAIを使い、別の表現が適しているのであれば他の制作方法を検討する。
アトムストーリーでは、この段階からご相談いただけます。
生成AI動画には、制作コストや納期を圧縮できる可能性があります。しかし企業にとって重要なのは、動画を安く完成させることではなく、その動画で本来の目的を達成することです。
消費者やブランドへの影響、伝えたい意図を表現できるか、公開後に起こり得る対応まで含めて、生成AIを採用するメリットが上回るのかを判断する必要があります。
AIか人かという二者択一ではありません。「誰に何を伝え、どう受け取ってほしいのか」を起点に、その案件に適した制作方法を選ぶこと。それが、企業が生成AI動画を検討するときの重要な判断基準です。
誰に、何を伝えるかから、一緒に整理します。
訴求軸の整理 → 顧客視点での言語化 → ストーリー・表現設計
アトムストーリーでは、この順序で企画を進めます。制作手法から決めるのではなく、誰に何を伝え、どう受け取ってほしいかを起点に、目的に合うストーリーや表現方法を一緒に考えます。